軌跡~ある教員サークルの興亡~70
「本須賀さんが米野さんに目を付けてる方が、畑野さんに目を付けられてるよりわかりやすいんじゃないか?客観的に見られるからさ。ほら、同じ男として、ハンターになった時の状態はわかるだろ?」
わかりません。
白山さんへの恋心は、憧れが百パーセントです。
狩ってどうこうしようと思ったことはないのですから。
でも、その時の自分は見栄を張って「そうだね」と答えました。
経験豊富に見せたいというよりは、せっかく土屋君が自分を同等に扱ってくれているのだから、ここで敢えて劣った人間だと教える必要はないのでは?との気持ちからです。
「見るからに女ったらしだろ?本須賀さんは。いけすかないわぁ」
確かに自分も初見からそう思っていたところはあります。
けれど、ここまであからさまに言ってくれると、いっそ清々しいものです。
と、その時に、土屋君の話し方に癖があるのに気付きました。
標準語でそう言うと、かなりきつく聞こえたのでしょうが、彼の言い方がそのセリフを丸くしていると感じます。
後になった知りますが、土屋君は和歌山の出身。
西日本のイントネーションなのでした。
それまでは、ずっと地元横浜か、その近郊の人としか接してこなかったので、改めて色々な地域から人の集まる大学に属していること、そして自分もその一員としての大学生であることをしみじみと感じたものです。
人と接している時にそう確認しないと、自分が何者であるかを忘れそうになります。
それくらい、自分は大学という組織から浮いた生活をしていたのです。
「それでも本須賀さんと畑野さんは付き合っているんでしょ?お互いに気付くんじゃないの?相手が他の誰かにちょっかいを出していることなんて」
畑野さんに気に入られている実感が無いので、他人事として訊いてみました。
「気付いているから、なおさら自分も、ってなってるんかもなぁ」
土屋君の意見に片瀬さんも肯きます。