軌跡~ある教員サークルの興亡~74
二日目の昼は交流会となっていて、S大学生もこちらの大学生も共に二班に分かれて、片方は海へ、もう片方は川へ行くことになりました。
どういった組分けをしたのか、S大学の男子学生二人と桃野さん、それから本須賀さんと自分が海班になります。
見事に男だけです。
八月中旬、真夏の盛りの暑苦しい時に、暑苦しいメンバー。
男子校出身なので、男だけの方が気楽なのは知っています。
だからそこは割り切って、桃野さんがハンドルを握るワゴン車に乗り込みました。
事前に計画を立てず、行き当たりばったりで事に当たったので、海に来ても何をするか決まっていません。
夏ですが、妙高高原から海に行くとは思ってもいなかったので、誰も水着を持って来ておらず、それに曇りのせいか見るからに水が冷たそうです。
でも、何かしないわけにはいかず、特に誰が始めたのでもなく、砂で山を作り、そこに棒を差して順番に手で周りを削っていく遊びをしました。
自分の順番の時に棒が倒れた人が負けです。
子供の頃にした遊びです。
大人になってからすると、新たな楽しみがある、ということはまったく無く。
遊びをする前より、余計虚しくなりましたし、誰もがそう感じたはずですが、それを口にしてはいけない雰囲気が満ち満ちていました。
それは、空気が張り詰めた風船に針で穴を開けようというのに似た雰囲気です。
実行してしまうと、取り返しのつかないことになるといったシチュエーション。
だから誰もできません。
わびしい空気の中、時間すらも参っているのか、時計の針の動きも鈍い気がします。
雲は増え、海もそんな空を映して暗い色を海面全体に敷いていきます。
じりじりと、単調な空気が、次の単調な空気に入れ替わり、元から少なかった会話も途切れがちになっていました。
そんな重苦しい空気に、遂にしびれを切らしたのが桃野さん。
盛り上げ上手を自認している彼です。
見えないコンクリートが固まっていくような、この沈んだ灰色の空気を打破しようと一つの提案を勢いよく口にしました。
「海に叫ぼう!」
馬鹿じゃないのかこの人は。
直後に思った感想です。
桃野さん以外のメンバーは、目を見交わして苦笑いです。
他にどういう反応ができたでしょう。