鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~76

 

「そうかぁ?お前と米野、仲が良いように見えるけどな」

隙あらば、自分と米野さんを二人にしようとするのだから、傍から見れば仲が良く映るかもしれませんが、実情はまったく異なります。

まともに返事をせず、小首をかしげるに止めます。

「じゃあ、女に言ってやりたいことを言えよ。せっかく男だけなんだから」

何故自分だけ主張のジャンルを「女性に対して」と限定されるのか、理不尽に思いました。

この時あたりから、自分は桃野さんを加速度的に苦手に、いえ、ストレートに言うと、嫌いになっていった気がします。

 

「女に、ですか……」

あまり反発して、一応は交流会と銘打っているこのイベントの雰囲気を更に淀ませてはいけないと思い、石を強く握って波打ち際まで行きました。

「女なんて……」

「声小さいぞ!」

桃野さんの煩わしさに、「あんにゃろ……」と感じつつ、言い直しました。

「女なんて、もう信用しないっ!」

そう叫んで投げた石は、図らずも水切りし、波の上を一度跳ねて本須賀さんの着水ポイントよりは遠くまで飛んでいきました。

 

 

言葉自体に意味はありません。

まるっきりのでまかせです。

少しでも意味を考えて叫ぼうとすれば、どうしても白山さんに関わることだけが口をついて出てしまう気がしていました。

こんなおかしな茶番に、大事な片思いの相手への気持ちをほんの少しでも言い表したくなくて、なるべく本心からかけ離れた言葉を選んだまでです。

そもそも、家族以外の女性を信用する、しないの関係になったことがないのですから、発した言葉はより空虚です。

 

元いた場所に戻ると、皆は「まあまあか」といった顔。

ですが、桃野さんだけは、自分が心にもないことを言ったと気付いていて、ドロンとした目で睨んで来ました。

(嫌な人だな)

確定的に嫌いになった瞬間です。

 

認めたくはないですが、彼と自分とは相通じるところがあったのだと思います。

友人関係であったならば、とても気が合ったかもしれません。

磁石のN極とS極のようにぴたりとくっつくこともあったでしょう。

理解し合えたのです。

でも、運命の歯車は、互いのN極とN極、S極とS極とを表面に出し、相反するよう仕組みました。

似ているからこそ人としての底が見えてしまい、また底の浅さに気付いてしまうから、憎しみが生じる。

そんな悪い循環関係にありました。