軌跡~ある教員サークルの興亡~97
「そうなんですか。小さいサークルに見えて、実は結構人の入れ替わりが多いんですね」
「うーん、ここは特殊だよ」
本条さんは断言と言っていいほどの強さで、そう口にしました。
「教員サークルが特殊、ですか?」
「そう。河合君は他のサークルに入っていないから知らないだろうけど、こんなに人間関係が密なところって珍しいよ」
「そんなに密ですか?部室もなくて、サークルの活動日にだけ集まっているのに」
「ああ、そのせいかも。部室があるサークルの方がもっとサバサバしてるよ。そこに行けば誰かいるだろうっていう軽いノリで集まるからね。でも、教員サークルは自分が行かなきゃ活動に支障が出るって感じちゃうから、メンバーの出席率がすごい高いんだと思う。ほぼ100パーセントでしょ?私が掛け持ちで入っている手話サークルは、『この日に集まろう』って話しても、本当に来るのは六割くらいだしね」
そこで初めて本条さんが別のサークルと掛け持ちしていたのを知りました。
なぜか二股をかけられ、裏切られた気持ちが一瞬だけ胸を掠めます。
知らず知らずに、教員サークルに対して愛着を持ってしまっていたようです。
「人間関係が深みのある分、こっちの方が楽しいけど。私が変わることのできた、恩のあるサークルだしね」
本条さんが、そう続けて言ったのを嬉しく聴いている自分がいました。
やはり、心が教員サークルに取り込まれている。
そこで何となく時計に目を向けると、前に見た時から長針が45度くらい移動しているのを発見しました。
会話の力は偉大です。
あれほど頑なに進むのを拒んでいた時を動かすことができたのですから。
「そんなに変われるものですか?」
引き続き、期待を込めて訊きました。
「変われたよ。仁部さんに話し方のコツを教えてもらって、桃野さんの言う通りにしてたら段々と自分の意見が言えるようになってきた」
「桃野さんの言う通り……?」
自分の表情を読んで、本条さんは目を細めました。