鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~98

 

「河合君は桃野さんに苦手意識あるでしょ?だったら無理かも。桃野さんは誤解を受けやすいから、人によって見方は真っ二つに割れると思う。良い人だって言う人と、ちょっとイヤだなって言う人とにね」

(ちょっとどころじゃない)

思いますが、口には出しません。

「良い人ですか?具体的にどこがです?」

「たとえば……、人の意見を否定しないところとか。とても細かいところまで見てくれているところ。あと、やっぱりあの人のバイタリティかな。壁があっても、ブルトーザーみたいに前に進んで行く力はすごいと思うよ。繊細でありながら大胆、何かのキャッチコピーにありそうだけど、桃野さんはまさしくそんな感じ」

誰のことを話しているのか判別不能になるほど、自分と本条さんとの桃野さん観は異なっています。

同意できるのは、バイタリティーがあることくらいでしょうか。

人によってここまで見え方が異なることに驚きました。

畑野さんや片瀬さん、それから恐らく土屋君も自分と同じく反桃野さんです。

対して、本条さんは桃野さんに対して親和的。

一人の人、一つの物事には必ず多様な見方があると思い知ったのがこの時です。

これをきっかけに、あまり一方的かつ一面的に事象を判断するのは危険だと思うようになった気がします。

それほどに、本条さんが桃野さんを褒めるのが意外だったのです。

 

 

「自己否定をしない。法律に反していないなら正しいと信じる。間違っていたのを気付いたら間髪入れずに認めて謝る。逆境は自分磨きの試練と思う。憧れの人をいつも頭の隅に意識し続ける。他にも色々言われたけど、そういったことを桃野さんは教えてくれたの。人生のヒントみたいなものをね。それを実戦していたら、自然と性格が変わって来たよ、私の場合」

少し極端なものもありますが、当時は、桃野さんもああ見えていいこと言うなぁ、と素直に感心したものです。

けれど、今振り返って見ると、どれもが自己啓発本の受け売りだと気付きます。

その頃にはまだこの言葉はありませんでしたが、いわゆる「意識高い系」の人の言説です。

自分が苦手なタイプです。

「良いこと」を押し付けようとするその姿勢が受け入れられません。

本当に意識が高い人は、まず行動し、更にそれを人に強いません。

でも、「系」が付く人は、まず言葉が先にあり、その途上にも関わらず、周りを同じ方向に向けさせようとする。

何かおかしいと感じても、正しいだけに反論しにくいやり口が、どうにも自分の生き方と相容れないのです。