鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~131

 

「うん……。しない」

こちらとしても、なんとでも取れる返事をせざるを得ません。

「だろ?恋人がちゃんといる女としっぽりうまくやるなんてできないよな」

「うん、関わりたくない」

しっぽりという言葉がいやらしさを感じさせるので、はっきり拒絶しました。

土屋君は時々そういったオヤジっぽい発言をします。

「俺がお前の立場だったら攻めるけどな。据え膳食わぬは男の恥とも言うし。男の勝手な都合だけどな」

「据え膳なのかなぁ。ただ手を握っただけだよ。それに本当に行く?本須賀さんの目が怖いじゃん」

「相手が他の女の子ならともかく、畑野さんだからな。それに本須賀さんこそ誰にも文句を言えない立場だろ」

そこで土屋君は試すような目でこちらを見ました。

米野さんと本須賀さんの関係を知っているか。

それを窺う視線です。

 

 

「本須賀さんについてはその通りだと思う。でも畑野さんだからっていうのは?」

暗に、米野さん、本須賀さんのことは知っていると織り込みつつ尋ねました。

こちらも土屋君が何故二人の関係を知っているかは疑問でしたが、話の流れを切りたくなくて質問は差し控えます。

「畑野さんは、あれ、結構なあばずれだからな。この前の飲み会の後、カラオケに行っただろ?その後更にバーに行ったんだよ。三次会だな、要するに。バーテンダーが腕をシャカシャカさせてカクテルを作る本格的なところだよ。でもそう値段も張らないし、雰囲気も良かったから今度行こうぜ。何なら今日でもいいし」

誘いは嬉しいので笑顔で肯きますが、今は話の続きが聴きたいから、「その三次会は誰が行ったの?」と軌道修正します。

「ああ、俺と桃野さんと本須賀さん、それと仁部さん。見事に男だけだったな。しかも全員胡散臭い」

「仁部さんも胡散臭い?」

「そうだろ。見ればわかる」

土屋君が断定的に言うので、彼もまた、自分が仁部さんを初めて見た時の、細目に企みがありそうだなと思ったのと似た感想を抱いているのだと知りました。

 

「外見だけじゃなく、中身もくっさい人ばっかりだけどな。あのサークルで真人間なのは俺とお前くらいだぞ」

「片瀬さんは?」

「ああ、男ではってことだ」

ふっと土屋君の顔に影が掛かったのが見えましたが、その暗さが普通でないように思えます。

でも、それは一瞬のこと。

すぐに彼は元の表情に戻りました。