鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~135

 

「そのスワッピングを本須賀夫妻がしていると?」

自分が訊くと、土屋君は笑って「そう、あの夫妻がな」と乗ってくれました。

「だから、河合も危ないところだったのかもな。そのスワッピングに巻き込まれそうになったんだから」

「自分は米野さんと付き合ってないから、スワッピングのもう一組の夫婦にはなり得ないんだけど」

「関係ないんだよ。そういう細かい点は。前も言っただろ?あの二人はお互いに嫉妬し合って気持ちを高めて行くんだって」

「言ってたね、片瀬さんと一緒の時に。あの頃からお見通しだったんだ」

また改めて感心しましたが、土屋君の返事が一拍遅れます。

「まあな」

それに、表情も暗くなっています。

 

 

先ほども彼が同じような顔つきになったのを思い出しました。

その時も今も、自分が片瀬さんに言及した際にそうなったと気付きます。

思えばこの二、三日、片瀬さんを目にしていません。

喧嘩でもしたのかと思いましたが、土屋君の様子を見るに、事はもっと深刻そうです。

人付き合いに慣れていたら、こういう時にうまく話を聞き出して相談に乗れるのかと、相も変わらずのないものねだりに歯がゆくなりました。

「河合さ、桃野さんを叱ったんだってな」

目元に影が残ったままで土屋君が質問します。

バーに行った時に、桃野さんが裏事情を話したのでしょう。

「叱ってないよ。ただ文句を言っただけ」

「あんまり馬鹿にするなって脅したんだろ?」

一体桃野さんはどう話したのかと首を傾げたくなります。

誤解があってはいけないと、あの日居酒屋の階段下で何があったのかを詳細に説明しました。

「そうか、桃野さんの話とはかけ離れてるな」

「どちらを信じる?」

「言うまでもないだろ。お前の話を信じるさ」

嬉しいことを言ってくれます。

 

「まともなんだよな、河合は」

そう口にしつつ、まだ憂いが感じられる土屋君に、「うちら二人だけがまともなんでしょ。あのサークルでは」と彼が先に言った言葉を掛けて励ましてみます。

励ます必要があるのか確信が持てなかったのですが。

「そうだったな。……いや……」

奥歯にものが挟まった話し方に、鈍い自分でも彼が何かで悩んでいるのを感じ取ります。

「ああ、ちょっとな……」