鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~134

 

「ねぇ」

と、その時もそう言いました。

「畑野さんが桃野さん、仁部さん、本須賀さんと男を替えて来た理由は訊いた?」

「相変わらずエグいところを突くな。そこは訊けなかったけど、大体わかる気がするぞ。河合が畑野さんの立場だとしたら、桃野さんと付き合うか?」

「付き合わないだろうね」

考えるまでもありません。

「じゃあ、仁部さんとはどうだ?」

「まだよく知らないけど、どちらかと言えば無いかな」

「そうだろ?じゃあ、本須賀さんはどうだ?」

「無いけどなぁ……。でも、浮気のこととかなければ、まだいい……かな。付き合うかも」

「だろ?そういうことだよ。畑野さんは選り好み出来る立場じゃないんだ。そんなに可愛くもないから男を選り取り見取りに選んでいられないんだよ」

「結構ひどいこと言ってない?」

「言ってるぞ。でもそうだろ。正論しか言ってないじゃないか」

「それこそエグいでしょ」

「エグくはない。俺の喋りはど真ん中のストレートだからな。河合の場合は、そうだな……」

そこで土屋君はジッポーのライターを指の間で十何手か使って曲芸のように回し、最後に火を点けてカシャンと蓋を閉じました。

禁煙席なので煙草に火は点けません。

考える時の、無意識の癖でしょう。

格好つけているだろうに、嫌味がありません。

それは多分、自分が土屋君に好意を持っているためだと思われます。

 

 

「河合の話し方は、サンドバッグに釘を打ち込んで、ぐりぐり回した後に一番傷が大きくなる角度でそれを抜き取る感じだ」

適切な解説を思い付いたとばかりに、土屋君は得意げな顔で言いました。

「野球の話じゃないんだ」

まずはそう突っ込んでから、「そんなにかな?そこまでひねくれた話し方してる?」と訊きました。

「ひねくれてはいないな。話の角度が独特なだけで」

その角度がいまいちピンと来ませんが、土屋君がこちらの物言いを否定的に受け取ってはいないらしいのが伝わって来るので、それ以上の反論はしません。

 

「まあ、いいけど。それはそれとして、色々あっても本須賀さんと畑野さんは別れないんでしょ?そこがわからないよ」

「要するに変態なんだよ。俺も理解できないけど、スワッピングっていうプレイもあるしな。あの類いじゃないか?」

「スワッピング?」

当時は本当にその意味を知りませんでした。

そして、知りたくもなかったし、知った後でも土屋君と同じく理解できません。

「例えば二組の夫婦で互いのプレイの相手を交換することだよ」

何でもないように説明する彼を物知りだと感心して見た記憶があります。

とはいえ、感想は「へぇ……」というもの。

まったくもって同調する要素がありませんから。