鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~116

 

「でも、本須賀さんは畑野さんと付き合っているよね?」

「そう、だよ」

訳がわからなくなってきました。

「さっき、米野さんは本須賀さんと付き合っているって言ったよね?」

「うん、言った」

「そして今も本須賀さんと畑野さんは付き合っている、と?」

「そう」

「本須賀さんが二股かけてるってこと?」

どう考えてもそれしか答えが見付かりません。

声を潜めて訊くと、米野さんは「そうなっちゃうね」と大して悪気もなさそうに言いました。

「どんな付き合いなんですか、それは……」

「どんなって……、なんで敬語なの?」

今度は米野さんもこちらの話し方の変化に気付いた模様。

「いえ、なんとなく」

そう受け流して、返答を待ちます。

が、既に電車は渋谷駅に停まるため減速を始めています。

 

 

「うーん……」

口ごもる米野さん。

停車するまで答えが返って来るとは思えません。

一方で、彼女も話すのを拒絶している様子でもなさそうです。

むしろ誰かに、この場合自分しかいないので、こちらに聴いてもらいたいといった雰囲気もあります。

「教えて欲しいな」

素直に言ってみます。

すると米野さんも電車が渋谷駅に入ったのに気付き、「降りずに付き合ってくれたら、話すよ」と言いました。

我が強い、別の言い方をすれば、わがままだなぁ、と思ったものの、やはり悪い気はしません。

小学生の頃も友達と話したくて、自分が降りるべき駅を乗り越すことが何度もありました。

それくらい仲良くなれたのだと考えられます。

でも、その時は友達の方が「降りなくていいの?」と心配してくれていました。

それを鑑みれば、米野さんの自己本位性はやや強めかと思われます。

「じゃあ、降りない。話を聴きたいから」

そう言いました。