鬱な現実~うつしぐさ~

うつ病者及びスキゾイド症者の語るしくじりだらけの人生

軌跡~ある教員サークルの興亡~

軌跡~ある教員サークルの興亡~114

結局一時間以上話し合っても、これという提案が出なかったため、また二人各々で考えることにしてカフェを後にしました。 特に学校に用事はないので、そのまま帰ることになったのですが、米野さんが品川に用があると言うので、途中まで一緒になりました。 同…

軌跡~ある教員サークルの興亡~113

一時間ほど話しましたが、これといった案は出ません。 「難しいね。ミニ模擬授業でいいと思うけど」 そう言うと米野さんは、両手で口を覆って短く目を瞑りました。 「ごめん、あくびしちゃって」 言われなければ気付きませんでした。 退屈させているかと、小…

軌跡~ある教員サークルの興亡~112

「何か考えとけって言われても、学祭なんてまともに参加したことないから……」と米野さんに言いながら、暗い思い出が蘇ってきました。 高校二年の学祭の時、クラスでサスペンス映画を作ったことがあります。 出演は皆嫌がりました。 もちろん自分も。 でも、…

軌跡~ある教員サークルの興亡~111

その日、空は高くまで晴れ渡り、清々しくはあるものの、日差しにまだ夏の残りがあるため気温は高かったと記憶しています。 自分は米野さんと共に、学食の二階にあるカフェテラスでアイスティーを飲んでいました。 デートのように見えますが、まったくもって…

軌跡~ある教員サークルの興亡~110

「桃野さんはプレイボーイなんですか?」 無邪気に訊くMさんに、「プレイできないボーイです」と即答してしまいました。 手を握られて上気しており、言葉を抑える弁が働きを失っていたのです。 自分以外の三人が失笑を漏らします。 畑野さんが笑うと、握った…

軌跡~ある教員サークルの興亡~109

畑野さんの手に力が入りました。 まるで、私の味方でいて、と言っているよう。 本当にそう思っているのかもしれません。 手と手を繋ぐことで思いが伝わる。 だから恋人同士は、いつも手で繋がっていようとするのか。 // 「そうですね。私も、あと私の友達も…

軌跡~ある教員サークルの興亡~108

「へー、かなり人間関係入り組んでいるんですね」 Mさんも、ひと息ついて落ち着いた口調で言います。 代わりに今、自分が内心で取り乱しています。 「桃野君が入り組ませている張本人なんだけどね」 畑野さんがそう言うのと同時に、彼女の指がこちらの指の間…

軌跡~ある教員サークルの興亡~107

「桃野さんて、酔うといつもああなるの?」 Mさんが尋ねました。 「大体そうだよね?」 畑野さんが言ったので、本条さんが肯き、自分も続きます。 その時、束の間横へ顔を向け、畑野さんと視線が絡みました。 何か意味ありげで、艶っぽさを感じた風に思いま…

軌跡~ある教員サークルの興亡~106

気になるのは、こちらの太ももに畑野さんの爪先が当たっていることです。 片瀬さんが話し始める前はちょこちょこ当たったり離れたりしていたのですが、今では完全にくっついています。 畑野さんは気付いていないのか? 確かめたくても自分が意識し過ぎなだけ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~105

「ちょっとあっちの様子見て来ます」 片瀬さんが広間の方を指差してから立ち上がりました。 土屋君の様子を見に行くのでしょう。 残された四人は、あからさまに態度で表しませんが、ほっとしています。 あれだけ滔々と喋られると、その後の会話に困ります。 …

軌跡~ある教員サークルの興亡~104

片瀬さんは、「村上春樹」と聞いて目を輝かせたのも道理で、ただ本を読んでいたのではわからないことをよく知っていました。 相当熱心はファンのよう。 ファンというか、フリークかマニアと言ってもいいほど。 村上春樹が芥川賞を取れなかった理由、彼の原稿…

軌跡~ある教員サークルの興亡~103

「うん、なにかとりとめもなく話していただけ。河合君は話したいことある?」 少し距離が近すぎると感じられる位置に座る畑野さんに、そう訊かれます。 「自分は、特には……」 「河合君、学部と学科はどこだっけ?」 S大学の先輩に尋ねられ、文学部の国文科と…

軌跡~ある教員サークルの興亡~102

合宿最後の夜です。 桃野さんは張り切って、普段なら後輩に任せて自分はしない飲み会の下準備を率先して行っています。 テーブルの上の紙の資料を片付け、コップを用意し、いつどこで買い込んできたのか焼鳥やら乾き物やらを甲斐甲斐しくそこに並べました。 …

軌跡~ある教員サークルの興亡~101

とにかく酔い潰れて口が滑って今聞いた話を誰かに話さないようにしよう、と志の低い目標を立てたところで、本条さんがふと顔を正面に向けました。 向かいのホームに畑野さんが立っていて、こちらに手を振っています。 ついさっきまでは無人だったので、今着…

軌跡~ある教員サークルの興亡~100

内容の確認のため、頭を整理して、質問を組み立てます。 「畑野さんの前の彼氏ということですか?」 「そういうことになるよね。いつの間にか、畑野さんは本須賀さんと付き合うようになっていたんだけど……」 「だから、その仁部さんはサークルに来ないんです…

軌跡~ある教員サークルの興亡~99

「なるほど……」 本条さんが桃野さんを信奉するのももっともだと感じます。 自分も、今のように汚れていない無垢な時に、耳障りの良い、現実的なアドバイスを受けたら、同じように尊敬していたかもしれません。 「本条さんは、桃野さんの教えを実践しているん…

軌跡~ある教員サークルの興亡~98

「河合君は桃野さんに苦手意識あるでしょ?だったら無理かも。桃野さんは誤解を受けやすいから、人によって見方は真っ二つに割れると思う。良い人だって言う人と、ちょっとイヤだなって言う人とにね」 (ちょっとどころじゃない) 思いますが、口には出しま…

軌跡~ある教員サークルの興亡~97

「そうなんですか。小さいサークルに見えて、実は結構人の入れ替わりが多いんですね」 「うーん、ここは特殊だよ」 本条さんは断言と言っていいほどの強さで、そう口にしました。 「教員サークルが特殊、ですか?」 「そう。河合君は他のサークルに入ってい…

軌跡~ある教員サークルの興亡~96

「桃野さんと、あと仁部さんていう先輩が一生懸命同好会の勧誘を頑張っていて、手作りのチラシを貰ったの。仁部さんも国文科だったし、それで何となく行ってみようかなって気持ちになったんだ。去年の六月くらいだったけど、どこのサークルにも入っていなく…

軌跡~ある教員サークルの興亡~95

蝉時雨の中、パチンと自然の音とは趣が異なる響きが耳に届きました。 本条さんが煽ぐのをやめ、扇子をポシェットにしまうためにその口を開けた音です。 横目でその動作を何気なく見ていると、「河合君は……」と本条さんの口が開きました。 扇子を仕舞う、この…

軌跡~ある教員サークルの興亡~94

「そうですか」 素っ気なさに対して素っ気なさで返さぬよう、できる限りの温情を込めて返事をしました。 心なしか扇子の動く速度が速くなった気がします。 緊張させるか、最悪苛立たせてしまったのか。 いたたまれない気持ちになり、口を開く勇気を失いまし…

軌跡~ある教員サークルの興亡~92

「でも、本当に桃野君には気を付けなよ。女の人のことになると理性失うから。特にお酒が入っている時はね」 忠告を受けて、昨夜の桃野さんのレッドカードに近いセクハラ言動が蘇ります。 畑野さんの口ぶりからすると、前科がありそう。 「そういうことがあっ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~93

「女の子なら誰でもいいんですかね?」 その時、桃野さんが目を付けていた大和撫子の染谷さんは、本条さんと随分タイプが違います。 だからそう訊いてみると、畑野さんは「ちょっと本音を言い過ぎ」と、世話好きのおばちゃんが馴れ馴れしくしてくるような調…

軌跡~ある教員サークルの興亡~91

「河合君もね、飲み会の時、桃野君に付き合うことないんだよ。自分の飲み方で飲むのが、本人にとっては一番楽しくなれるペースなんだからね」 てっきり無言状態が続くと思っていたので、嬉しい声掛けです。 「強引は強引ですが、ギリギリのところでマイペー…

軌跡~ある教員サークルの興亡~90

自分が沈んだことで、散発的にあった会話も皆無になりました。 ひと気のない駅で三人並んで座り、沈黙のホームにアブラゼミの声が間を埋めるように響きます。 ベンチの一番左に自分が座り、右隣に畑野さん、その隣に本条さんの順です。 女子二人が並んでいる…

軌跡~ある教員サークルの興亡~89

一体どういうわけか。 畑野さんの話の続きを待ちました。 「合宿前に、三日目の、つまり今日の行き先の候補をリストから選ぶように言ったでしょ?」 そうです。だから、国文科の生徒が好みそうな場所を選んだのです。 「でも最初、一茶記念館を希望していた…

軌跡~ある教員サークルの興亡~88

が、その列車を見送ったのは間違いだった。 首都圏に住んでいると、電車が来る間隔をそれほど意識しません。 特に仕事や学校のない休日はそうです。 気にせずともダイヤは詰まっていて、待つほどもなく次の電車が来るのですから。 けれど、そこは違いました…

軌跡~ある教員サークルの興亡~87

合宿三日目、この日の昼は課外研修という堅苦しい名前が付いた活動が割り当てられています。 童話館やナウマンゾウ博物館、小林一茶記念館の三か所に、三班に分かれていくことになっていました。 合宿へ行く前に前もってどこに行くかの希望を尋ねられていた…

軌跡~ある教員サークルの興亡~86

堕落し切った愚者たちが集う空間に、清冽な空気を纏う片瀬さんからの一言。 きまり悪げに各々で顔を見合わせ、目をこすったり、伸びをしたりして気分を変えようとします。 電気が点いている室内より、閉めてある障子の外の方が明るそうです。 部屋の奥で「ピ…

軌跡~ある教員サークルの興亡~85

「そう、ヤリます」 桃野さんのノリに乗ってしまうMさん。 バブル期並みにイケイケです。 といっても、自分はバブル世代ではないので、あくまでイメージですが。 「もう玄関開けたら二分で合体みたいな?」 S大の、さっきとは違う眼鏡先輩も理性が喪失してい…